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平成18年(ワ)第7583号損害賠償等請求事件

原 告 戸崎 貴裕

被 告 (実母の氏名) 外2名

 

準備書面(1)

被告らの不法行為を主張するに当たっての規範的根拠

 

平成18530

東京地方裁判所民事25部 御中

 

原    告    戸崎 貴裕  

 

 本準備書面の趣旨は,被告らの不法行為を主張するに当たっての規範的根拠(社会規範)を示し,本事件の審理における原告の主張の援用とするものである。本事件における被告らの原告に対する行為は,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律,精神障害者の移送に関する事務処理基準(以下「事務処理基準」という。)並びに社会的要請を規範とすべき行為,すなわち精神病院への移送行為及び医療保護入院措置が主であるため,本準備書面ではこの2つの行為に関連する社会規範の形成過程及び具体的内容を,時系列で示し明らかにする。本準備書面で示す規範は本来医療を目的とするものであるから,社会規範であると同時に,被告らの行為が行われた当時までに形成された医療水準であると考えられる。

尚,本準備書面で示す規範は精神障害者に対する医療を目的としたものであるが,原告はいかなる精神病でもなく(甲2号証),被告らの行為が健常者である原告に対し精神障害を捏造するという故意,少なくとも重過失によって行われたという主張は訴状の通りである。

以下,被告らの行為に対する社会規範の形成過程及び具体的内容を時系列で示し明らかにする。

   <昭和60年と平成4年の判例>

以下の2つの判例は,強制的な入院の必要性の認定についての判断を下している。尚,昭和59年の宇都宮病院事件を発端とし,人権侵害を伴う強制入院を行っている精神病院があることが明らかとなり,昭和62年の法改正(精神福祉法)に繋がったという社会背景もある。

(1) <東京高判昭和60・3・27判タ556号125頁>

本判決では,「そもそも,精神障害者か否か不明の段階で,あるいは,精神障害者であっても入院の必要性の存否が明らかでない段階で入院に同意することは不可能であるし,医師としても診察,診断をなさずに保護義務者に入院の必要性を説くことはできない。そして,本人の利益に反する人権侵害をもたらすような同意入院を防止する観点からして右の順序を逆にすることは許されない」とし,診察及び診断,並びに強制的な入院の必要性の認定及び判断が入院措置の前に行われるべきであるとしている。

(2) <福岡地判平成4・12・15判タ818号108頁>

本判決では,「原告を家族や社会から隔離して,急遽,一方的,強制的に入院させる意味での必要性,切迫性,要保護性があったものとは考えられない」(この判決は控訴審である福岡高裁平成6年8月31日判決 判タ878号233頁において確定。)とし,強制的な入院の必要性の認定における判断基準を若干具体化して示している。

   <平成9719日 朝日新聞朝刊(甲6号証)>

(1) 平成9719日付けの朝日新聞朝刊では,「警備会社,精神病院へ搬送 患者家族依頼で強制的に(1面)」と題し,「医師ら専門家の立会いも患者本人の同意もないままの搬送は人権上問題があり」とし,また「警備会社より地域が支えを(3面)」と題し,「この問題の背景には,地域で精神障害者を支える体制の立ち遅れがある」としている。この全国紙における指摘が,その後の規範形成に与えた影響は大きいとされる。

   <平成11521日 国会議事録>

145回国会 厚生委員会第11号,「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律案を議題」と題する会議の議事録より,移送制度について,厚生省(当時)説明員による説明を抜粋する。

(1) 「今御指摘の民間の会社が障害者を運ぶことの是非でありますが,私どもはそれに対して,強制的に,つまりそこに人権の一種の拘束状況をつくる,そういう行為を行った上で搬送するということが何の法的な裏づけもない形で運用されることは好ましいことではない,したがって,少なくとも御本人を本当に拘束せざるを得ないのかどうかという一定の手続をとるためには,単にこれをそのまま民間にお任せするということは適切ではない。こういう考え方から,御指摘の答えになりますが,やはりそういうものを民間がやっていただくのは好ましくないというか,やらないでほしいという気持ちでこの制度を創設したわけであります。」

(2) 「若干説明が不十分であったかと思いますが,この移送制度というのは,少なくとも,そういうケースが発生して,それに対して一定の診断行為,手続行為を行って,それから搬送車に,搬送の手段に乗って病院へ行くという一連のものとして,その手続を経ないで民間でやるというのは好ましくない,このように申し上げました。」

   <平成11521日 国会議事録>

第145回国会 国民福祉委員会 第8号議事録より,移送制度について,厚生省(当時)説明員による説明を抜粋する。

(1) 「目的は、そういう制度がなぜ必要だったかというと、そのことによって家族が非常に困っていたという問題もある一方で、例えば搬送業者が無理やり身体を拘束して病院に運んでいるという実態に対する批判等があって、何はともあれ患者さんの人権というものを今よりもより丁寧に扱うということを一つの目的として制度をつくっている。」

(2) 「都道府県知事の責任において適切な医療機関へ移送する制度を整備するということが基本的な考え方でございます。

したがいまして、都道府県知事の責任において搬送するということがまず基本でございますので、単に業者に任せるといったことは念頭にございません。」

   <平成11528日>

(可決)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律。34条(医療保護入院等のための移送)が設けられた。

   <平成12331日>

厚生省(当時)による事務処理基準の通知。

以下,事務処理基準につき,平成163月ジュリスト増刊「精神医療と心神喪失者等医療観察法」において,名古屋大学教授 山本輝之氏による医療保護入院のための移送に関する事務処理基準のまとめが掲載(229頁右側上より5行目から230頁左側中段まで)(甲7号証)されていたので,以下,(1)より(8)として抜粋する。人権を侵害しないためにはこれだけの基準(注意義務)が必要であり,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第34条(医療保護入院等のための移送)の条文にもとづいた行為の規範となるものである。

(1) たとえば,精神障害者Aが,家族が入院を勧めても,「自分は病気ではない」と言い張って,受診を拒否していたが,日に日に病状が悪化しているという場合,通常,家族が保健所に相談する。保健所の職員は,その旨を都道府県知事に連絡する。

(2) 事務処理基準によれば,連絡を受けた都道府県知事は,Aについて指定医による診察が必要であるか否かを判断するため,都道府県職員を速やかに現地に派遣して,事前調査を行わせる,ということになっている(事務処理基準第二の3)。

(3) 派遣された都道府県職員は,Aの居宅等現在場所に出向いて調査を行う(事務処理基準第二の3の())。措置入院の場合には,指定医,県の職員は診察等のために住居に立ち入ることができるとされているが(法27条4項・5項),改正法は医療保護入院のための移送についてこのような規定を設けることはしなかった。これは,医療保護入院は,精神障害者本人からみれば強制入院であるにせよ,保護者の承諾がなければ行うことができない入院制度であるからという考えによるのであろう。したがって,保護者が職員の立ち入りを拒絶した場合には,立ち入ることはできないことになる(事務処理基準第二の5の(7))。

(4) 都道府県知事は,職員による事前調査の結果,指定医による診察が必要であると判断した場合には,指定医を指定し(法34条1項),その指定医がAを訪問する。指定医はAを診察し,移送の要否について判断する。事務処理基準(第二の5の(1))によれば,この診察は,診察の結果,入院が必要と判断された患者を受け入れる応急入院指定病院の指定医以外によって行われることを原則とするとされている。

(5) 指定医による診察の結果入院が直ちに必要と判断された場合には,都道府県知事は移送について保護者の同意を得て,Aを応急入院指定病院に移送する(法34条1項・2項)。移送に先立って,派遣された都道府県職員は,Aに,(イ)これから,医療保護入院のために○○病院に移送すること,(ロ)移送のための手段(例:車),(ハ)行動の制限をすることがあること,(ニ)この移送に不服があるときは,移送の日の翌日から起算して,60日以内に厚生労働大臣に対し,審査請求をすることができることを,書面により告知しなければならない(法34条4項,事務処理基準の第二の4の(2),同第三の4)。事務処理基準(第二の(4)(5))によれば,移送は都道府県知事の責務として行われ,都道府県職員が同行する。

(6) 指定医が必要と認めたときは,その者の医療又は保護に欠くことができない限度において,厚生労働大臣が定める行動制限を行うことが出来る(34条4項,29条の2の2第3項)。

(7) 当該応急指定病院にAを移送後,入院させることについて保護者が同意した場合には,Aを入院させる(法33条1項2号)。保護者の入院についての同意は,移送についての同意(法34条1項)とは別であるから,新たに得られなければならない。しかし,指定医の診察はすでに終了しているから(法34条1項参照),新たにこれを行う必要はない。移送先の精神病院の管理者による医療保護入院の決定によって,都道府県の責任による移送手続は終了し(事務処理基準第二の4の(8)),以降の手続きについての責任は当該病院が負うことになる。

(8) 移送手続きの開始あるいはその途中で,Aが暴れ出し,都道府県職員の身体に危険が生じたような場合には,もはや医療保護入院のための移送を行うことは不可能となる。そのような場合には,必要に応じて措置入院のための移送の手続きに切り替えるべきことになる。具体的には,県職員は警察に通報し,警察官はAを警察署その他の適切な場所に保護し(警職3条1項),そこから,次項の,措置入院のための移送手続が開始されることになる。

   <平成1241日>

(施行)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律等の一部を改正する法律。34条(医療保護入院等のための移送)が設けられた。

   <平成13327日>

森喜朗内閣総理大臣(当時)による,「参議院議員櫻井充君提出民間移送会社による精神障害者の移送に関する質間に対する答弁書」と題した書面より,移送について言及した部分を抜粋する。

(1) 「精神障害者が任意で精神病院を受診する際に,移動の便を得るために民間の移送サービスを利用することは否定されないが,その際に刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百二十条に規定する逮捕又は監禁のような犯罪行為が行われてはならないのは当然のことである。」

   <平成1361日>

東京都において,精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第34条の規定に基づく医療保護入院のための移送制度が運用開始。これまでに形成された社会規範を満たすための制度の運用が開始されたこととなる。

10     <平成163月>

以下,平成163月ジュリスト増刊「精神医療と心神喪失者等医療観察法」の記事(228頁からの,「精神医療へのアクセス-移送問題について-」)(甲7号証)より,関連部分を以下の(1)から(4)として抜粋する。この解説はこの時点で既に確立した規範の解説と捉えることができる。

(1) 231頁右側下から8行目より)「事務処理基準第二の1は,『移送制度の基本的考え方』として,『医療保護入院及び応急入院のための移送は,緊急に入院を必要とする状態にあるにも拘らず,精神障害のために患者自身が入院の必要性を理解できず,家族や主治医等が説得の努力を尽くしても本人が病院に行くことを同意しないような場合に限り,本人に必要な医療を確保するため,都道府県知事が,公的責任において適切な医療機関まで移送するものである。したがって,この移送制度の対象とならない者に本制度が適用されることのないよう,事前調査その他の移送のための手続きを適切に行うことが重要である』としている。」

(2) 232頁左側下から8行目より)「(原告による注釈:精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の)34条では(原告による注釈:33条に比べ)より高い医療緊急性および病状の重篤性が要求されている。(中略)事務処理基準によれば,当該患者を診察する指定医は,移送の必要性だけではなく,それに続く医療保護入院の必要性の有無についても判断するものとされている。」

(3) 232頁左側上から13行目より)「(原告による注釈:『精神保健福祉法詳細(改訂版)』を引用して)34条の対象となる『直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者』とは,一般的には,自傷他害のおそれはないが,直ちに入院させなければ患者本人の病状が著しく悪影響を及ぼし自傷他害に至るおそれがあると判断される場合に適用が認められるものと考えられる。(後略)」

(4) 234頁左側上から13行目より)「本来,本制度の創設の趣旨からするならば,民間業者による移送を一律に禁止することが筋であるが,(中略)民間業者による移送の問題点は,その技術そのものよりも,指定医の判断なしに,患者の行動制限を行うなどの患者の人権を侵害するおそれが高いことにあった(後略)」

11     まとめ

原告は,本準備書面にて示した社会規範が,社会的要請にもとづき,裁判,国会審議といった正規の手続きを経て本事件以前に確立されたことが明らかであるから,本事件の審理において極めて重要な規範となるものであると同時に医療水準であり,これら規範に違反した行為は極めて反社会的な行為であるという主張をするとともに,これら社会規範を本事件の審理における原告の主張の援用とするものである。

以 上

 

 

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2014629

戸ア 貴裕